カテゴリ:chylothorax( 6 )

Chylothorax in Dogs 5 -surgical therapy-

<外科的治療>
 内科的治療が奏効しなかった場合、手術を考えます。
 ワンちゃんの体にメスを入れるのですから、当然最終手段です。
 しかしタイミングを逃すと充分な効果が得られない可能性があり、注意が必要です。
 何度も記載してきましたが、胸膜繊維化が起きると肺の充分な拡張が得られなくなり、手術の効果が期待できません。


 ミューが逝ってしまい、今日で6週間。
 あっというだった間という感もあるけれど、一日一日を思い出すと、長い時間が過ぎさった気もします。
 テオは、二匹で過ごした日々を忘れ(いや、記憶には必ず残っているはずですが、思い出すきっかけがないだけでしょう)、パパとママの愛情を一身に受けてしあわせそうです。
 ミューの写真やビデオを、なんとなく毎日見てしまいます。
 すでになつかしい想い出になってしまいました。
 今回手術について記載をするのは、極めてつらい作業でした。
 術後の姿を一瞬でも思い出すと、胸がしめつけられます。
 心やさしく思いやり深かったミュー。
 いまごろは、天国で元気よく走りまわっていると信じています。
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 さて、手術をする上での大きな問題が、胸管の走行には破格(ヴァリエーション)が多いということです。
 胸の右側を上行し、心臓の後ろを通って左鎖骨下動脈に達するのが通常の解剖です。
 しかし両側の胸管が存在する犬は3割近くにのぼるようで、何らかの走行異常、合流以上を呈する犬も4割に達します。
 そのため、単純に右開胸して横隔膜近くで胸管を縛るだけですと、有効率は50%程度しかありません。

 手術の適応は、Joseph Harariの教科書 "Small Animal Surgery Secrets"によると、内科的治療を行って2週間を経ても乳びが貯まってくる場合や、20ml/kg/day以上の乳びが5日間以上つづく場合とあります。

 術式は、ミューに行った手術が好ましいと、今でも考えています。
 前述の通り、胸管の走行に破格が多いため、術中に乳び槽から造影を行うことを勧める記載は確かに多く存在します。
 しかし造影写真を探しても、合流異常や破格をきれいに描出しているものは見当たりませんでした。手技的にもかなり難しいのではないかと思います。
 ほとんどの犬で右胸管がもっとも太いことは間違えないので、これを結紮。加えて、万一走行異常があって右胸管結紮だけでは効果がなかったときのために大網を充填し、生理的なドレナージとする。また、心膜切開は簡単なのでこれも同時に行う。この三種の組み合わせが良いと思っています。
 
 乳び胸の手術を多数手がけているTexasのDr. Fossumは、心膜切開は理由はわからないが極めて有効だとしています(犬での有効率100%)。
 右室の負荷がとれるからとの記載もありますが、それなら術前のエコーで負荷所見が見つかるはずですし(見つかっていない)、利尿剤が有効のはずです。静脈の負荷を軽減するニトロ製剤も有効のことでしょう。
 しかしミューにはどちらも全く効果がありませんでした。
 Dr. Fossumのおっしゃるとおり、まさに因果関係不明なのでしょう。
 ミューはこの手術の術後、残念ながら亡くなってしまいました。しかし、手術侵襲が大きすぎたのが原因とは考えていません。手技も血管の操作に慣れた獣医さんにとっては難しくないでしょう。
 どうぞ、手術のタイミングを逃さぬよう、内科的治療が無効だったら適時にこの手術にチャレンジして下さい。

 胸管の結紮すべき部位は、解剖学的に線維化の起こりにくい場所です。手術の少しまえにクリームをなめさせておけば、白く走行が確認できます。
 設備が整っていれば、胸腔鏡で胸管結紮と心膜部分切除は充分可能です。
 もちろん大網フラップの作成と充填も、同じスコープ下で行えます。これが上手くいけば体への負担はかなり軽減されるでしょう。

 シアノアクリレート(Superglue)による胸管塞栓術は、臨床報告が少ないものの、かなり期待できると思います。開腹して乳び槽を切開し、胸管のなかに炎症を起こさせる物質を注入します。これならば、破格を気にする必要がありません。更なる臨床報告が待たれます。

 胸腔と腹腔をシャントチューブでつなぐ手術も報告がありますが、実際には閉塞しやすく、またチューブが高価なことから私は良い方法だとは思いません。

 手術を確実に成功させるためには、まずは乳び胸の病態生理がしっかり把握されることが必要です。研究者の情熱に期待しています。
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by musignytheo | 2009-12-21 18:32 | chylothorax | Trackback | Comments(6)

Chylothorax in Dogs 4 -medical management-

<内科的治療>

診断の稿でも書きましたが、すばやく診断しすぐに治療を開始することが大切です。
乳びに接する時間が長いと、胸膜や心膜は炎症によって線維化してしまいます。
これは乳びの再吸収を阻害し治療の妨げとなります。

注射をしても胸の穿刺をしてもそれほどいやがらなかったミュー。
でもなぜか、聴診が嫌いでした。
聴診器を取りだすとブルーになり、逃げだそうとします。
何度も診察して、ミュー、ごめんよ。
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乳び胸の治療法を調べると、低脂肪食療法が真っ先にでてきます。
乳びは通常の透明な胸水に比べて胸膜からの吸収が悪いだろうという仮定の下に推奨されているようですが、私の調べた範囲ではそれを証明した論文は見あたりませんでした。
食事が消化管を通過すると、胸管を流れるリンパ液の量は急激に増加します。
これはいくつかの実験で証明されています。
こういった調節は、神経内分泌系のきわめて複雑な機序によることが予想されます。
何を食べても流量が増えてしまうなら、低脂肪にしても仕方ないのではないでしょうか。

乳び胸のワンちゃんで大切なことは、腸の細胞から吸収された脂質がどのくらい血液のなかに入ってくれるかです。
その経路として

①リンパ管を介さず直接血管の中に入る
②胸腔に漏れだした乳びが胸膜から再吸収される

が考えられます。


<中鎖脂肪酸の投与>

①を増やす方法の一つに、中鎖脂肪酸の投与があります。
中鎖脂肪酸はリンパ系を介さずに直接静脈系に入り、比較的速やかにエネルギーとして利用されます。
(ただしこれには異論もあります)
中鎖脂肪酸を最も多く含む油脂は、ココナッツオイルです。
ミューは投与しはじめてから明らかに栄養状態が改善しました。
よって経験的に私はこの方法を推奨します。

厚労省の特定保険用食品マークがついた製品に、中鎖脂肪酸含有を売りにした商品がありますが、数%しか含んでいないものがほとんどです。
ココナッツオイルはネットショッピングで簡単に手に入りますが、石鹸用で食用にならないものもあります。
ご注意ください。


<ルチン>

②を増やす方法に、ルチンの投与があります。
ルチンは植物から採れるフラボノイドで、血管透過性の抑制、組織におけるタンパク質の分解と吸収の促進、ある種の白血球(マクロファージ)の乳びに対する食作用を亢進させることで乳びの貯留を減少させます。

ミューもルチンを投与して一週間ほどで、明らかに胸水の量が減りました。
しかしその効果は一カ月しか持続しませんでした。
人間でリンパ浮腫にルチンを使用した場合、効果は一カ月過ぎから現れ、数か月から一年かけて症状を改善させるようです。
作用機序から考えても、効果発現に時間を要することが予想できます。

ミューで比較的急激に効果が減弱した理由は何でしょうか。
私は胸腔内に比較的多量に残っていた乳びの接触で、ルチンが作用する部位、すなわち胸膜の血管やリンパ管、間質に炎症が生じ、効果発現に支障をきたしたのではないかと考えています。
 
もし今後、乳び胸のワンちゃんにルチンを使うとしたら。
私はきっと、胸腔穿刺するさい細いカテーテルを挿入して徹底的かつ頻回に乳びを抜きながら治療することをお勧めするでしょう。

使用量は、体重1kgあたり1日50~100mgと大量です。
それを一日2~3回に分けて投与します。
体重20kgのワンちゃんなら、1日1g必要です。
国産品は一錠20mgくらいの製品しかありませんので、その使用は非現実的です。
幸い個人輸入で一錠500mgの製品が比較的安価に入手できます。
100錠入りで送料を含め2000円位です。
Googleで「ルチン 個人輸入」と検索すれば簡単です。
私はサプマートというサイトから何度か購入しましたが、5~6日で届き安全でした。


<オクトレオタイド>

オクトレオタイドは、脳や膵臓、腸から分泌されるソマトスタチンというホルモンのアナログ製剤(効果を高め副作用を減らした類似物質)です。
乳び胸に対する作用機序は、消化液の分泌抑制、胸管を流れるリンパ液の流量抑制です。
1日3回の皮下注射が必要です。
体重1kgあたり1日5~10μgが標準的な使用量です。

ミューには自宅で注射しました。
この薬は乳びの再吸収を促進しませんので、ルチンと併用するのが良いと思います。
胸膜炎が起こる前に投与しないと効果がないかもしれません。

この薬は大変高価です。
体重20kgの犬ですと、2週間治療したら薬代だけで10万円くらいかかります。
しかしミューのように無効だったら意味がありません。
今は、入院させ毎日充分胸腔を穿刺しながら治療するべきと考えています。
肺と胸腔の内側(壁側胸膜)が癒着して初めて治癒するのだと思うからです。
その場合、病院にもよると思いますが、20万円以上の出費を覚悟しなければなりません。
でも手術が回避できるなら価値は高いと思います。
ただしまだ実験的治療ですので、特発性乳び胸にたいする有効率は不明です。
胸管を実験のため切断した犬(恐ろしい実験です)には、ほぼ全例で有効だったと報告されています。

chylothorax, dog, rutin, octreotide, low-fat diet, medical management
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by musignytheo | 2009-12-11 18:43 | chylothorax | Trackback | Comments(2)

Chylothorax in Dogs 3 -treatment overview-

乳び胸をまとめた3回目。
今回は治療の総論です。

特発性乳び胸の治療は、内科的治療と外科的治療に分かれます。
人間の場合、乳びが穿刺されたら、まず胸腔にドレーンを入れて持続的に吸引を開始します。
同時に絶食にし、中心静脈栄養で栄養状態の維持に努めます。
(低脂肪食での管理は無効と、すでに1960年代の論文に系統的なレヴューがあります)
一日にどのくらいの乳びが流出してくるか測定し、一定量(例えば500ml/day)を超えるようならば、一週間をめどに手術に踏み切ります。
私も術後乳び胸を2例経験しましたが、みるみる栄養状態が悪くなった記憶があります。
手術が有効で、2例とも元気に回復されました。


いまでも庭にでると、ふとミューをさがしてしまうことがあります。
いないと気づくまでの一瞬のしあわせと、あとの悲しさが対照的です。
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<治療・総論>
あなたのワンちゃんが呼吸不全を起こしている場合、まず胸腔穿刺が必要です。
乳びを除去し、肺を拡張させることで呼吸状態は改善します。
この際、血圧が低下することがあります。
はじめて穿刺する場合は、点滴のルートを確保し、ゆっくり乳びを除去する必要があります。
ミューはそうでしたが、重症の呼吸不全をきたしている場合は酸素吸入も行います。

二次性の乳び胸では、治療は根底にある疾患によって異なります。
例えば心臓病が原因の乳び胸ならば、心臓を治療しないと治りません。
悪性リンパ腫が原因ならば抗がん剤による化学療法が必要になります。
ここでは、特発性乳び胸にしぼって治療法を考えます。

乳び胸は比較的まれな疾患です。
何十例という治療報告をしている施設は、論文を見る限り、日本はもとよりペット先進国のアメリカでさえ見当たりません。
治療法を科学的に評価するためには、相当数の症例を前向きに比較検討しなければなりません。
一般にある治療が有効かどうか判断するためには、何百例、何千例という症例を統計学的に妥当な手段を用いて解析する必要があります。
これは非常に時間や労力を必要とする大変な作業です。
犬の乳び胸に関しては、残念ながらそういう系統的な評価の報告はありません。
多施設間での前向き試験を喚起する論文はありましたが。
つまり乳び胸においては、これが有効だという決定的な治療方法は分かっていないということです。

こういう場合は、過去の症例報告を参考にしながらそれぞれのワンちゃんについて最適な方法を探っていくしかありません。
そもそも特発性乳び胸では、胸管の本管から乳びが漏れるのか、その枝からなのか、それとももっと細いリンパ管レベルで漏出が起きているのかさえ分かっておりません。
治るにしても、漏出点が塞がって治るという意見と、乳びが胸まで上がってこないで、お腹の中で静脈系に注ぐような新しいルートができて治るという意見があります。
分からないことだらけなんですね。

治療には内科的(保存的)治療と外科的治療があります。
治療最終目的はもちろん乳びが漏れださないようにすることですが、前段階として、呼吸状態を良くすることと脂質やタンパク質の喪失による栄養状態の低下を改善する必要があります。
そのために、胸腔穿刺と栄養学的サポートが重要です。

残りは二回。
内科的治療と外科的治療です。
参考文献もあとから追加する予定です。

つづく...
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by musignytheo | 2009-12-05 17:47 | chylothorax | Trackback | Comments(0)

Chylothorax in Dogs 2 -diagnosis-

乳び胸に関する情報、第二回目です。
今回は、診断について私見をまとめました。

どんな病気にもあてはまりますが、迅速で正確な診断は極めて重要です。
ミューは最初の病院を受診した際、胸部レントゲンで多量な胸水が貯まっている、恐らく肺がんで一週間は持たないだろうと言われました。
あまりにショックで思考が停止してしまい、医療人でありながら確定診断を考える心の余裕を失ってしまいました。
しかし一週間たってもミューの様子は変わりません。
徐々に冷静さをとりもどし、ミューを苦しめる疾患の正体は何だろうかと考えられるようになりました。

今日は小春日和。
風もなく穏やかな一日でした。
こんな日には二匹で重なりあい、ひなたぼっこを楽しんでいたものです。
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<問診と診察>
診察室に入ると、獣医さんは丁寧な問診と全身の診察をしてくださるでしょう。
問診で重要なポイントの一つに、最近胸に大きな力がかからなかったかという点があります。
例えば交通事故にあわなかったか、高いところから落下した可能性はないか、などです。
また、激しくむせると胸管が破れることも あるようです。
ミューは発症の少し前、慌てて食事をし、激しくむせたことがありました。
原因だった可能性もあります。
外傷性の乳び胸(ケガが原因で胸管が破れてしまう)は、自然治癒する可能性が比較的高いと言われています。
後述するルチンやサンドスタチンの治療にもよく反応するようです。
ただし発症から治療までの時間が非常に大切です。
治療の稿でも言及します。

さて、乳び胸のワンちゃんは、心音や呼吸音が乳びにさえぎられて減弱します。
心雑音はないか(心臓病)。
首や脇のリンパ節が腫れていないか(リンパ腫)。
お腹に水がたまっていないか、肝臓は腫れていないか(右心不全)。
舌の色は悪くないか(低酸素血症)。
診察で分かることもたくさんあります。


「診断」
<胸部X線>
胸水を疑ったら、主治医の先生は胸部レントゲンを撮影するでしょう。
症状の出現した乳び胸ならば、胸に液体がたまっているのが分かるはずです。
しかしその状態では、X線診断に限界があります。
充分液体を除去してからもう一度レントゲンを撮り、異常がないか確かめます。
その際胸に影が映ることがあります。
それは、肺がん、縦隔腫瘍(心臓の周りにできた腫瘍)、転移性腫瘍(他臓器からの悪性腫瘍の転移)、悪性リンパ腫、真菌による肉芽腫かもしれません。
疾患を鑑別するのにX線撮影は重要な検査です。

<心エコー>
心臓や心臓の周りの変化を診断するのに役立ちます。
ファロー四徴症、三尖弁形成不全症などの先天性心疾患は、乳び胸の原因になることが分かっています。
心のう液が貯まっていないかの診断も重要です。
もし認められたら、穿刺吸引して細胞の検査に提出します。
心のう液が乳びになる病態も報告されています。
その他、縦隔腫瘍の診断にエコー検査が役立つこともあります。

<穿刺液の検査>
採取した乳びは、①生化学検査 ②細胞診 ③細菌検査 に提出されます。
①採取液中の中性脂肪値が血清の値より高ければ乳びと診断できます。
同時に蛋白量や細胞数もチェックされます。
②腫瘍細胞がないかの検査です。
ただし腫瘍が存在しても陽性にならないことも多いので、複数回検査することが必要です。
③細菌感染がないかの検査です。
乳び胸と膿胸の鑑別に有用です。
乳び中には白血球が多く存在するため乳び胸は感染に強く、治療で何度か穿刺しても膿胸などの感染症をきたしにくいと報告されています。

その他、やや高価な検査ですが、PCR法によるリンパ球クローン性解析も、悪性リンパ腫の除外診断には有用です。
採取した乳びや血液で調べられます。
精度も比較的高いので、CT検査の代用とします。

<血液検査>
貧血の有無、白血球の数とその成分、栄養状態、肝機能、腎機能、電解質のバランス、フィラリア症の有無などをチェックします。
乳び胸の犬は、リンパ球数の低下、栄養状態の悪化などがおこりやすいとが分かっています。

<鑑別診断>
乳び胸には、原因が分からない特発性と、他の疾患に伴って発症する二次性乳び胸があります。
犬では多くが特発性です。
人間には特発性乳び胸が殆どないのと対照的です。
特発性の診断は、除外診断です。
つまり他の疾患がないことを根拠に診断されます。

鑑別されるべき疾患には、まず胸部にできる腫瘍性疾患があります。
腫瘍が胸管を圧迫すると管内の圧力が上がります。
そのため乳びが漏れだし胸腔に貯まるのがその機序です。
腫瘍が胸管に直接浸潤して破綻させることもあります。
レントゲン検査やエコー検査で見つかりますが、腫瘍が小さい場合は診断が困難です。
細胞診で腫瘍性変化が疑われたらCT検査が求められます。
なお、人間では胸水が認められたらただちにCT検査を行います。
動物では全身麻酔が必要になること(呼吸状態が悪い犬には危険)、コストが数万円から10万円と高額なことから気軽には行えないのが残念です。

chylothoraxをキーワードに検索していたら、乳び胸の愛犬が手術を受けたと報告するブログに出会いました。
その子はアメリカの某大学病院を受診し、すぐに細胞診とCTを受け、当日のうちに特発性と診断を確定されたようです(すごい!)。
驚くことに翌日には手術を受け、元気になったと書いてありました。
ちなみに、CTの費用は50万円!!
さすがにオーナーさんは断ったようですが、後から研究目的で無料にするからと提案され、無事検査できたようです。
手術の時期については議論を要しますが、早期に診断を確定させることはとても重要だと思います。

そのほか、心臓病や悪性リンパ腫も鑑別しなければなりません。
前者は心エコーで、後者はCTやリンパ球クローン性解析、腫脹したリンパ節の病理学的検査で診断します。
迅速な診断には、やはりCTが欠かせないと考えます。

私が診断のスピードを重要視するのには理由があります。
ミューは手術時に心膜や腹側の胸膜が非常に肥厚しているのが分かりました。
ちょうど最も乳びにさらされている部分です。
これはスピキュレーションですが、炎症で胸膜が肥厚してしまう前でないと、ルチンやサンドスタチンは効果を発揮しないのではないかと思います。
胸膜の機能が正常で胸水の再吸収がなされているうちがチャンスだと考えるからです。
愛犬には誰しも手術は受けさせたくないものです。

うちのミューは、診断までに1カ月を要しました。
最初にかかった2か所の病院からは、助からない悪性の病気と判断され、積極的な診断はしてもらえませんでした。
夜中に呼吸困難になってはじめて大きな病院にかかり、病気に立ち向かえる可能性を教えられました。
乳び胸は特殊な疾患です。
診断や治療に特別なスキルが求められます。
頻回に乳びを抜く必要がある場合には、スタッフのマンパワーも必要です。
(ミューのかかっていた病院では、毎回二人のスタッフが2時間もかけて抜いてくださいました)
早期に経験豊富な病院にコンサルトされるのが好ましいと思います。

昨日、病院から寄せ書きが送られてきました。
獣医さんやVTや受付の皆さん30人以上が、ミューのために署名してくださいました。
何てあたたかい心のかよう病院なんでしょう!
心から感謝いたします。
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つづく...
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by musignytheo | 2009-12-01 19:00 | chylothorax | Trackback | Comments(0)

Chylothorax in Dogs 1 -overview & symptom-

 ミューが逝ってしまってから三週間が経とうとしています。
 当初の深い悲しみからは、何とか逃れることができました。
 代わって頭をもたげてきた感情は、悔しさや救えなかった自分への怒りです。
 この種の苦しみは、当分私の心を離れないような気がします。

 ミューのことをブログに載せるようになってから、乳び胸をキーワードに、毎日多くの方が訪れてくださいます。
 乳び胸の家族を持ち、きっと苦しんでいる方でしょう。
 一つでも多くの命が、この憎き疾患から救われることを願ってやみません。
 甚だ微力ですが、犬の乳び胸の診断と治療について、私の経験に基づいてまとめてみたいと思います。
 分量が多くなりそうですので、何回かに分けて掲載いたします。
 以下はすべて私的な見解です。
 何より大切なことは、主治医の先生と良好な関係を保ち、充分話し合いながら方針を決めることだと思います。

 さて、愛犬が呼吸困難などの症状で動物病院を受診。
 胸を穿刺したらミルクのような液体が採取されました。
 「乳び胸の疑いが強いです」
 あなたの主治医はおっしゃいます。
 そこから出発しようと思います。

<乳び胸とは>
 闘うためには、相手が何者か知ることが大切ですね。
 乳び胸。。。
 自分のペットがその病気にでもならない限り、生涯聞くことのない名前かもしれません。
 乳び胸は、胸管というリンパ管の本管から乳びという脂肪を多く含んだリンパ液が漏れだし、肺や心臓の周り(胸腔)に貯まる病気です。

 リンパ系は非常に複雑な器官で、簡潔に説明するのは困難です。
 ここでは胸管の役割だけを述べます。

 腸の細胞から吸収された脂肪分は、一部を除き、毛細血管(血液のなかに)ではなくリンパ管に入ります。
 そこはアミノ酸や糖分と違うところです。
 お腹のリンパ管のは合流を繰り返し、徐々に太くなり、みぞおちの奥で乳び槽という本管に到達します。
 静脈の本管が大静脈であることと対照して考えると分かりやすいかと思います。
 乳び槽は胸管とつながっていて、脂肪を多く含んだリンパ液(乳び)はお腹から胸の方向に流れ、最後は左の鎖骨の下にある静脈と合流して血液の中に混ざります。
 つまり胸管は、腸で吸収された脂肪分が静脈に入るまでの通り道といえます。

 胸管から、何らかの原因で乳びが漏れだしてしまった病態が乳び胸です。
 胸管は犬では直径2mmくらいで、とても繊細で壁の薄い管です。
(ご興味のある方は11月8日のブログに手術時の胸管の写真があります。私にとってはあまりにつらく、とても再び見ることはできませんが)
 縫ったり繋いだりするのは極めて困難で、手術する場合も扱いが難しい器官です。


<症状>
 症状は、胸にたまった乳びによって肺や心臓が圧迫されるためにおこります。
 慢性期には、栄養分の喪失による症状も出現します。
 歩くと苦しそう、息切れがする、むせやすい、咳がでる、食欲がおちる、元気がない、舌の色が紫がかってくる(低酸素血症)、体重減少。
 これらがこの病気になったワンちゃんには見られます。

 ミューは救急で運ばれる頃、食欲低下以外の全てがあてはまりました。
(食いしん坊でした)
 生涯一度も食事を残さなかったのは、彼女の勲章です、笑。
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 つづく.....
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by musignytheo | 2009-11-28 16:55 | chylothorax | Trackback | Comments(0)

Postoperative day 1

 術後一日目のミュー。
 無欲であきらめきった眼差しです。
 眉間の縦じわなど見せたことのない子なのに。
 苦痛に表情が歪んでいます。
 からだに何が起きたのか、なぜ胸やお腹に痛みがはしるのか、どうして呼吸が苦しいのか分からないようです。
 すわって体を落ちつけようとしても、脚がふるえてじっとしていられません。
 伏せをして、少し目を閉じたかとおもうと、すぐに小声で苦しそうに鳴き、またからだの位置を変えます。
 獣医さんのお話では直前にモルヒネを使ってくださったようですが、Nは正視できません。
 「しっかり見ておくんだ、記憶しようよ、ミューの姿を・・・」
 この姿を脳裏に焼きつけて、元気になったミューとどんな暮らしができるのか、何がしてあげられるのか考えようよ。
 
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 これ以下は、情報として手術時の写真を掲載いたします。
 自信のない方は、ご覧にならないでください。















 手術の経過をご報告いたします。
 11月6日、18時30分から全身麻酔導入。
 胸腹部を悌毛したあと、左胸腔にドレーンを挿入。残っている乳びを可及的にドレナージしました。
 側臥位で右第8肋間を開胸。乳びの漏出箇所は不明。幸い肺の臓側胸膜に肥厚はなし。しかし、心膜と前方の壁側胸膜は線維性にかなり肥厚していました。乳びの接触による炎症性変化と考えられます。
 3時間前からコーン油を飲ませておいたため、大動脈に接して白色の胸管が長さ3cmに渡って確認できました。大動脈周囲には全く炎症性変化はありません。犬の通常の体位を考えると背側の大動脈や胸管は乳びに接触しがたいので、炎症は起こりにくいのだと思います。(写真参照)
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 まず壁側胸膜を開け、大動脈を剝離。つづいて奇静脈の一部を剝離すると、胸管が周囲の脂肪組織を包んだまま遊離されました。解剖書と少し違ったのは、奇静脈と胸管は横隔膜側に近づくほど接近し、大動脈の左側にもぐり込んでいくようでした。
 胸管をできるだけ横隔膜側で、3-0 Prolineにて3カ所結紮。さらに分枝と思われる策状物2本もヘモクリップで閉鎖しました。この操作は、案外難しくありませんでした。
(結紮部位の写真は残念ながらピンぼけでした)

 次に心膜に目を移すと、上記のごとくかなり線維性に肥厚していました。注意深く剝離。はじめepicardiumと癒着しているように見え緊張しましたが、幸い癒着はなく、右室の前面を大きく解放しました。絞扼されていたのか、心膜を開くと右室が飛びだしてくるような印象を受けました。それにしても心膜の厚さは約3mmもありました。

 最後に後ろ脚を解放して thoracoabdominal positionにし、上腹部を10cmほど正中切開し、胃の左右から大網を一部はずし、短冊状のpedicleを作成。右胸腔側から横隔膜の前方正中に直径3cmほどの穴をあけ、大網を胸腔内に誘導。胸管結紮部から心尖部付近に広く分布させて、吸収糸数針で固定。万一乳びが止まらなかった場合を考え、大網のリンパ液吸収作用に期待して、physiological drainとしました。
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 腹部を閉じ、胸腔ドレーンを挿入後、胸の創も閉鎖して手術を終了しました。
 麻酔からの覚醒は順調でした。

 開胸・開腹と侵襲が大きくなりましたが、考えられる対処法はすべてやりとげることができました。
 麻酔も含め獣医さん4人とスタッフの方3人が手術に入ってくださいました。
 心から感謝しております。


idiopathic chylothorax, dog, thoracic duct ligation, pericardiotomy, omental flap, omentum
 
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by musignytheo | 2009-11-08 12:12 | chylothorax | Trackback | Comments(0)


Wine and Roses, Dalmatian and Labrador.


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