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Parosmia 4

 7月末、突然発症した私の異嗅症ですが、9月中旬から内服しはじめた漢方薬とビタミン剤のおかげなのか、それとも単なる自然経過なのか、若干軽快してきました。
 メンソールやアルコールを嗅ぐと例の石油香を感じはするのですが、その奥から本来の匂いもある程度分かるようになってきたのです。あくまでも、ある程度ではありますが。
 それでも改善には違いありませんので、気長に内服はつづけてみたいと思います。
 治療薬については、次のブログにまとめて記載する予定です。
Parosmia 4_e0163202_19564235.jpg



 さて、前回異嗅症についてのスペキュレーションをご紹介しましたが、最後に書きましたように、嗅細胞の個性の軸索末端におけるその表現についての論文を読んで、また違った仮説を考えてみました。
 2006年当時東大にいらした坂野先生、芹沢先生の「接着分子の組合わせによる神経個性の分子コード化」についての研究は、難解でしたが、少しずつ読み進めると概ね理解できました。
 脳は数千億個の神経細胞の集合体ですが、神経細胞はネットワークを形成しています。このいわば配線の先端では、お互い意味のある認識をしており、それゆえ高度な情報処理が行えるはず。この認識に用いられるコードの分子形態を嗅細胞をもちいて明らかにした研究のようです。

 ヒトの鼻腔の天井には嗅細胞が1千万個存在するようですが、この多数の嗅細胞が有する嗅覚受容体は約1000種類あることが分かっています。ところで、それぞれの嗅細胞にはたった一つの受容体しか存在しません。ここで検知した匂いの情報は電気信号に変換されて篩骨を貫いて嗅球に伝達されますが、前述したとおり匂いの分子と受容体は一対一対応ではありませんので、1000種類の受容体からの情報はあたかも電光掲示板の発火パターンのようになって脳に認識されていると考えられます。
Parosmia 4_e0163202_19514960.jpg



 さて、嗅細胞の軸索は嗅球のなかの糸球体という構造に集まりますが、糸球体の数は千対で、興味深いことにまさに1000種類の受容体にそれぞれ対応しています。ある受容体を持った嗅細胞の情報は、すべて特定の糸球体に収斂するというわけです。神経細胞(嗅細胞)の個性が発現する嗅覚受容体の種類として明確に定義できるのは、面白いですね。
 同種の受容体を持った嗅細胞の軸索末端は、同種の糸球体に集まってくる。それを可能にする分子構造の特定をしたというのがこの研究です。同じ受容体構造を有した嗅細胞由来の軸索を集め、同種同士を接着させるのが接着分子であり、異種の軸索末端の集合を阻止するのが反発分子。これらが制御されることで、1000種類ずつの嗅細胞と糸球体の機能的な対応が可能になっているのです。
 研究の実際は、一種類の嗅覚受容体遺伝子をほぼ独占的に発現するトランスジェニックマウスや、接着因子を強制発現する嗅神経細胞とそうでないものをほぼ半数ずつ作り出すモザイクマウスなどを用いて行われています。そして、詳細は省きますが、嗅覚受容体の種類によって規定される神経個性が電気信号の発生頻度に変換され、最終的には複数の接着分子の発現を制御する事により、それらの量と組み合わせという分子コードが軸索末端に表現されているのがつきとめられています。
Parosmia 4_e0163202_19513477.jpg



 この研究結果を鑑みて異嗅症を説明するとしたら。。
 外傷性の異嗅症の場合、篩骨の損傷も伴うでしょうから、当然糸球体も障害を受けると考えられます。しかし一様に広く嗅細胞が損傷を受けるとは考えにくい。外傷直後から異嗅症が発症しやすいのは、嗅細胞の個性に則した糸球体への軸索の収斂が阻害され、嗅中枢へ伝わる発火のパターンにエラーが生じるということでしょうか。
 感冒後異嗅症では、深部まで感染が及ぶとは考えにくく嗅粘膜までの損傷でしょうから、糸球体は正常のはず。ダメージを受けた嗅細胞が再生する過程で接着分子や反発分子の発現にエラーが生じ、収斂すべき糸球体に軸索が届いてゆかないのが原因でしょうか。当初は嗅細胞自体がある広さを持って一様にやられるために嗅覚低下が起こりますが、徐々に再生する過程で一部の収斂に生じたエラーが異なった匂いのパターンを生み出してしまうと考えることは可能と思われます。

                                         つづく
by musignytheo | 2013-10-10 20:00 | essay | Trackback | Comments(0)


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